彼・・・私の天使。
彼の部屋

1


 お店を出て二人で歩道を歩く。もう九月も終わり。陽射しも思った程きつくない。

「これからどうします? バイトまで、まだ時間あるんですけど」

「どうしたい? きょうは、お祝いだから聴いてあげるわよ」

「じゃあ、僕のマンションへ行くっていうのはどうですか?」

「えっ?」

「あなたのマンションには送って行った時に入れてもらったけど、僕の部屋にはまだ来てもらってないですよ」

「そうだけど……でも」

「僕が怖いですか?」

「ううん。そうじゃないけど、分かった。行きましょう」

 タクシーをひろって彼のマンションへ。雨降りに送って行ってから、どれくらい経ったんだろう。
 つい先日のような、もうずっと昔の出来事のような不思議な感覚。
 二人でエレベーターに乗って七階を押す。誰も乗って来ない。平日の昼下がりなんだ。部屋のカギを開けて

「どうぞ、散らかってますけど」

 中に入ると、えっ? どこが散らかってるの? きれいに片付いてるけど。

「私の部屋より、きれいだけど……」

「実は昨日、必死で掃除しましたから」

「そうなの?」

 窓が大きくて明るい部屋。陽射しがいっぱい。

「家のマンションより景色がきれいね」

「そうですか? でも夏は暑いですよ。この数日は、そうでもないですけど。何か飲みますか?」

「ううん。いい」

 思ったより広い部屋なのね。それに静かだし。

「ここからこの景色って事は、家は、この窓の逆方向、後ろ側になるのね」

「そうですね。そうなりますね」
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