彼・・・私の天使。


 料理長とマネージャーのそんなやりとりも知らず、私は近くに出来たオーダーシューズの店に居た。

「いらっしゃいませ」

「ちょっと見せてください」

「どうぞ」
 と店の主らしき人が出て来た。私の足元を見て
「足に良く合った靴をお履きのようですね」

「えっ? 分かるんですか?」

「ええ。立ち姿、歩く姿で、靴が足に合っているかどうか、だいたい分かるんですよ」

「そうなんですか。さすがプロですね。立ち仕事なんで靴には気を使ってるつもりなんですけど」

「良い靴をお選びだと思いますよ。もし足に何か、お悩みがあるようでしたら、またいらしてください。ご相談に乗らせていただきます」

「ありがとうございます」

 この店主さん、どこかで会ったような……どこだろう? 
 そうだ。ピノキオに出て来るゼペットじいさん。思い出したら、なんだか嬉しくなって来て、さあ、お店に帰ろう。まだ忙しい時間だから。

 お店の裏口から入って厨房に行くと、料理長と目が合った。心配してくれてたんだ。思いっきり笑顔で合図する。料理長も笑顔で答えてくれた。
 私を心配してくれる人は、ここにも居てくれた。ありがとう。元気出て来た。お店のスタッフ、家族みたいなものなんだよね。大事なことを忘れてた。ごめんね。

 もしも天使と別々の道を歩くことになっても、私は一人じゃないんだよね。

 お店に入るとマネージャーが近付いて来て
「先程、帰られました。大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。ちょっとピノキオの気持ちになってたから」

「はっ? ?」
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