彼・・・私の天使。
別離の決意

1


 事務所を出て、時間? きょうは定休日だった。

 そういえば、あんなに落ち込んでいる瞬君、初めて見た。相当ショックだったんだろうな。全部一人で抱え込んで……。

 ドラマの役。テレビに出られるようになったら私は傍に居ちゃいけないよね。スキャンダルは命取り。
 そろそろ覚悟しないといけない時期なのかな。

 ほんの数ヶ月前まで天使には出会ってなかったし元々一人だった。その頃に戻る。それだけのこと……。


 マンションに戻ると天使がドアにもたれて立っていた。

「どうしたの? 劇団は?」

「あれから行ってないから」

 カギを開けて部屋に入った。

「ごめん。謝りに来たんだ。心配させて……」

「私が辛かった時、一晩中傍に居てくれたよね。熱を出した時も移るかもしれないのに居てくれた。どんなに心強かったか嬉しかったか。でも、あなたが辛い時、私は傍に居てもいけないの? 私のこと思い出してもくれなかった? どうして会いに来てくれなかったの? 何時でも良かったのに。私が、あなたを守ってあげたいって思うのは、あなたのプライドを傷つける事なの? 私の方が年上だから? そうなのね」

「ごめん。僕が悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。ただあなたに迷惑掛けたくなかっただけなんだ。本当にごめん。会いたかったよ。決まってるだろ。でも情けない自分のままじゃ会いになんて来られなかった」

「情けない姿だって良かったのに……。私にだけは見せて欲しかったのに……」

 私は泣いていた。
 天使が私を頼って来てくれなかったからなのか、もう天使から離れなければいけないと感じていたからなのか。

 こんな想いをするくらいなら初めから出会わなければ良かったのに……。

 いろんな想いが頭の中で、めちゃめちゃになって私を苦しめた。

「本当にごめん。あなたを泣かせるつもりじゃなかったのに」

 天使は私を抱き寄せて、私は初めて彼の胸で泣いた。大人げないと思っても涙が止まらなかった。

 泣きながら真っ白になった頭の中で私は一つの結論を出していた。天使から離れよう……。
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