ひと雫おちたなら
「年下の絵画学科の男の子にモデルを頼まれる……、ここまで来れば立派な恋愛ドラマが成り立つわね」

「成り立たない」


頑として首を振る私を、瑠美はうさんくさそうな目をして見ていた。

「素直になりなさいよ。彼のこと、ちょっとくらいは好きでしょ?」

「嫌いではないよ」

「やめてくれない?高校生みたいな答え方」

「だって本当のことなんだもん」

ふわりとした私と睦くんの関係は、変わることなくずっとこのまま続いていくような、そんな雰囲気をまとっているのはたしかだ。

どこか一歩詰めがたく、離れがたい。

一ヶ月前までは中庭でお弁当を食べている学生も多かったが、さすがに寒くて最近はそんな人は見かけない。
みんなちゃんと食堂で食べている。

こんな寒空の下でご飯を食べようとする人は、なかなかの強者だけだろう。


くくく、と肩を震わせて、瑠美が興味津々といった感じでふざけ半分で尋ねてきた。

「まさか、ヌード?」

「…この貧相な身体、被写体として求められると思う?」

「……」

親友の反応は、じつに正直である。


「で?浩平くんは?その後はなにも?」

ちゃっかり話題を変えるあたり、瑠美としても私の身体が貧相であることは否定しないということだ。
流れとはいえ、むなしい。

「うん、おかげさまで何も」

「感謝しなきゃね、睦くんに」


私にできることって、なんだろう?







< 33 / 62 >

この作品をシェア

pagetop