ひと雫おちたなら

「どうだった?生で聴いたジムノペディは?」

「………うーん」

思いのほか、睦くんはすぐに感想を口にしなかった。

てっきりすぐに「よかった」なんて言うかなあと考えていたのだけれど、違ったのかな。
不思議に思って怪訝な表情を浮かべてしまった。

言葉を探すように、彼がさっきまで私が見ていた夜空を見上げている。

「なんだろう、CDより感情を感じた」

「感情かあ…」

「もっと無機質なんだ、CDは。それがよくて、絵を描く時に聴いてるから。でも、生演奏はそれはそれで別ものとして良かったと思うよ」

「睦くんって、絵を描いてる時はなにを考えてるの?」


少しの、変な間があいた。


「なんだろう、特に最近は…なんで絵を描いてるんだっけって思ってる」

「……好きだからじゃないの?」

「好きだから、ではない」

「あれ?そういえば睦くん未成年だよね?アルコールだめじゃん。ああ!タバコも!」

「出たよ…話の腰を折るのが得意なゆかりさんのいつものクセ」

はあ、とこれみよがしに彼がため息をつくと同時に、暗い公園にふわりと白い息が浮かび上がって消えていった。


クセってなによ。

私が人の話を聞かないというのなら、彼だって私の質問にすべて本心で答えているとは思えなかった。
いつも一部分だけ切り取って、端的にしか答えてくれない。
なにかを内に秘めているように、全部は見せてくれない。

それが少し寂しくもある。


静かな公園とは対照的に、すぐ近くの通りでは賑やかな人の声や音楽がBGMのように聞こえてくる。
あふれるほどのクリスマスの空気は、冷たい冬の空をほんの少しあたたかくするように流れて揺らしていた。

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