上司との同居は婚約破棄から

 でも、私も困っていたことで、愛梨さんに「藤花ちゃんも何か作る?」と言われて、一度はお断りした理由でもあった。

 さすがの私にだって常識はある。
 高宮課長の家に住まわせてもらうことになって家事を受け持とうという気持ちくらいはあった。

 だからダメ元で「私が作りましょうか?」と言ってみたことがある。
 皿洗いさえも嫌がっているのを肌で感じる高宮課長へお伺いを立てただけ偉いと思う。

 その時はもちろん「いや、いい」と呆気なく断られた。

 運んでいた箸を止めてグッと押し黙った高宮課長へ菊池さんがからかいの言葉を向ける。

「藤花ちゃん、悪く思わないでくれよ。
 俊哉はバレンタインにもらった手作りチョコを食って腹を壊したことがあってな。」

「余計なこと言うな。
 それは今、関係ないだろ!」

「関係あるだろ。
 それから他人が作った料理は食べられなくて、俺が知る中で食べられるのは唯一、愛梨の手料理だけだろ?」

 愛梨さん……だけ。
 じゃ、離婚した奥様は?とは聞ける雰囲気じゃなくて心の中にとどめておいた。

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