上司との同居は婚約破棄から

「いつもそういう顔しててくれればいいのに。」

「なんだよ。それ。」

「だって、いつもはこーんな顔してます。」

 目を吊り上げて見せると「俺は鬼上司か」と呆れ顔で言われた。

 笑って、くれないなぁ。

「何、言ってるんですか。
 まさしく鬼上司です。」

「ほぉ。
 そいつはいい度胸だな。」

 いつか見た悪い目つきをさせて、口の端を上げた。

 その顔に恐怖を感じて慌てて取り繕う。

「いえ。恐れ多い。
 いつも指導して頂いて有り難いです。
 引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」

「ったく。調子がいい奴だな。」

 呆れた声で言われて、つい「へへ」と声が漏れた。

 すると大きな手が私の頭の上に置かれて乱暴に撫でられる。

「お前はそうやって笑ってろよ。」

 顔が見えない優しい声は胸の奥をギュッとつかんで離さなかった。

 苦手な上司のはずだったのに、一夜にしてこんなに好きになるなんて先が思いやられるよ。

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