【短編】魔法なんて、使わなくてもさ
あの時吹いていた風はたしか金木犀の匂いを纏っていた。
「佐藤って頑張ってるフリしてるだけだよな」
高3の秋、
晩秋の風が足元に積もった落ち葉を運んでいた秋。
模試の帰り道、ちらほら私たちと同じ制服を着た生徒が私の先を歩いている。
そんな中、マフラーに顔を半分埋めながら歩いてると唐突に鈴木がそんなこと言ってきた。
別に嫌味じゃないって分かってたけど、
ムキになって私も言い返した。
「フリでもいいんだよ、なんでも」
誰にも言ったことない荒んだ気持ちをなぜか鈴木に明かしてしまう。
「自分の人生ってどんな風になるんだろうな」
「は?」
話が急に飛んだし、
人生について語り出した鈴木に正直辟易する。
「俺は見てみたいんだよ」
そう言った目は異常にキラキラしていて、
心の中で全力でバカにして、
全力で鼻で笑ってやった。
「何それ、鈴木って変わってるよね」
「佐藤、頑張ってるフリしてるといつかポッキリ折れるときがくるよ」
ああ、なんだ、心配してくれてるのね。
私が受験する大学をまだ決めきれずにいるから。
ううん、違う、
私が決められないのは受かる自信がないからだ。
無理でしょって言われそうで怖いからだ。
「佐藤はプライドが高すぎるんだよ」