【短編】魔法なんて、使わなくてもさ

大晦日の深夜3時、
私は赤い袴を着て昼間のように人が賑わう神社に
巫女として立っている。

見上げると空は冬の冷たい大気が星空を装飾して、
星が瞬いて見える。

不意に弱い風が耳をかすめて、
体の芯が小さく震えた。

足元のストーブが無かったらきっとこの微々たる風にも耐えられなかっただろう。

足元に光る小さな明かりを見て思い出した。
数時間前、今年が始まる直前に私の隣で
この中に火をつけた鈴木を。

鈴木は熱で休んだ人の代わりにお守りを運んだりして色々な所を走り回って働いている。

私は相変わらず1人受付の席に座っていた。

今日初めてアルバイトに来た人は皆、
おみくじとかお守りの所にいるのに、
私だけ1人受付に配属された。

わけもわからず一人で受付の机の前で座っていた。

そしてそこに、白装束でやって来たのは、
高校の同級生だった鈴木。

そう、あの鈴木だった。

連絡を取ってなくても
昨日会ったみたいに話せる奴。
些細な言葉で簡単に私を変えた奴。
才能はあるのにちょっと残念な奴。

それがあの、鈴木壱成だ。

私の隣に座った鈴木は言う。

「ここ、俺の家」

驚いている私をほっぽって、
自然に私の隣に座ってストーブに火をつけた鈴木。

一年の終わりに突然現れて
大きな爆弾に火をつけて私に押し付けてきた。

そうだったよ。確かに鈴木ってそんな奴だ。

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