キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
翌日。予定通りに、新築一戸建ての仲介だっていう売買契約が夕方から始まった。
羽鳥さんていうのは主任さん。店長を除いた5人の男性社員の中で一番、爽やかなイケメンさんで、一番気安く声を掛けてくれる。
成績もトップだから同時に抱える案件も多くて、吉井さんがアシスタントして業務を手伝うんだとか。

まだ契約の最中だっていうのに、7時半には社員が次々と黙って帰り、店長も8時には短く「じゃあ、宜しく」ってさっさと上がった。8時退社は規則だから、まあそこはツッコまない。

しばらくして、今まで淡々として聴こえた話し声が、少しにぎやかになった。
パーティションで仕切られた向こう側を吉井さんが気にしだすと、計ったように羽鳥さんから声がかかり、彼女が席を立つ。書類を手に戻った吉井さんからコピーを頼まれ、あとは言われるまま作業を手伝った。

特に大変なことは何も無かったけど、強いて言えば、ページを抜かしたりなんていうミスは犯せない正確さと、お客様を待たせすぎない迅速さを求められたというか。
会議用の資料作成とか前の会社でもやったけど、あれは事前に準備するからその場で待たせるってシチュエーションは無かったもんねぇ。

幾分、和んだ空気に包まれた中、吉井さんの指示でお客様のお茶を入れ替えたり。耳を澄ませて会話を拾いながらタイミングを計るっていうのも、アシスタントの役割ってことなんだろう。

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