キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「僕をどう思おうと、りっちゃんの事だけは、淳人に譲るつもりはないよ」

「・・・本気で思ってやるなら、俺とお前がリツを手放せばいい。違うか」

刹那。
音を立てずに何かが。弾け散ったような。放電したみたいな気配に、思わずミチルさんを振り仰ぐ。

感情の消えた横顔が、ただ真っ直ぐに淳人さんを見据えてた。
時間が停まってるのかと思うくらい、微動だにしないで。
凍てついた氷の眼差しで。

怒りがたぎってるわけじゃない。何かを堪えてるわけじゃない。なのに。
こんなに激しいミチルさんを見たのは、初めてだと思った。

あたしには、いつも優しくて、怒ったことなくて。
人間なんだから口惜しい事とか、遠慮なくぶちまけたっていい。
聖人君子を押し付けるつもりだってない。

だけど、もし。これが本当のミチルさんだって言うなら。

あたしは、今まで彼の何を見てきたんだろう。

沸き上がったその気持ちが不安だったのか、焦燥だったのか。自分でも解析できない。
知らないなら、知りたい。・・・知らないとダメな気がする。たぶん。きっと。

今までそんな欲求に駆られたことが無かった。ずっと子供の頃から知ってる、優しくあたしを甘やかすミチルさんだけで。十分だった。
彼がお兄ちゃんを愛してる限り、特別でいられる。他にはノゾマナイ。必要ない。そこから先は、開かずの扉で良かった。


その扉にゆるゆると、手を伸ばそうと。


怒りにも似た苛烈の気配を淳人さんに向けてた彼が、ゆっくりと顔を傾け、あたしを見つめた。揺らぎのない意思を秘めた眼差しに貫かれてた。

「りっちゃん」

深くて静かな声だった。

「僕は何があっても、りっちゃんを離さないし離れたりしないよ。・・・死ぬまで」


似たようなことを言われたことは、何度かあった。
なのに今までで一番、躰の隅々まで響いて。・・・渡った。

『愛してる』より、ずっと重く。
< 127 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop