キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
ミチルさんに手を繋がれたまま部屋に入り。座卓を挟んで、淳人さんの向かいにミチルさんと隣り合って座った。
緊張してるからか、居たたまれなさで真っ直ぐに淳人さんの顔を見ることすら出来てないあたし。

室内の装いを見回す余裕も無くて、奥は雪見障子だったとか、床の間に生け花が飾ってあったぐらいの印象しか。なのに。
黒いシャツにチャコールグレーの三つ揃いを着こなす淳人さんの、首元に結ばれたネクタイだけ、吸い寄せられるみたいに目に飛び込んできて。
息が止まりそうになった。


「・・・相変わらず、お構いなしだね。淳人」

ほかほかのおしぼりで手を拭きながら、ミチルさんは綺麗な貌を歪めることなく、さらりと口火を切った。

「僕がりっちゃんに会社を辞めさせない厚意を、仇で返すつもりなのか」

「そうやって守るフリで、リツを繋いでおけばお前の気が済むんだろう」

スッと目を細めた淳人さんは、口角を上げ挑発的な笑みを滲ませる。
二人の間の空気も口調も、穏やかだった。穏やかに冷気を放ってた。

まるで、水面下で火花を爆ぜさせているかのように。・・・まるで。見えない刃を背中に突きつけ合ってるかのような。
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