キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
今年の春、それまで勤めてた食品卸の会社は、あるスーパーチェーンを展開する企業の傘下に吸収された。
ビジネス系の専門学校を出て入社して以来、約六年。確かに最近、経営難の噂は流れていた。創業二十五年で案外固いと思ってたのに。

新たに親になった会社は当然のようにリストラでの人員整理を迫ってきた。
独身で、扶養家族がいる訳じゃない。当面の生活も確保できる。自分が辞めることで、辞めたくない人が一人だけでも免れる。・・・そう思ったから、潔く応じることを決めた。

ちょっとだけ上乗せされた退職金と引き換えに、無職になった八月。
会社都合での失業は失業保険もすぐもらえたし、ネットから就活サイトを通じて募集先にエントリーしたりもしてみたけど。たいがい年齢だとか、勤務地だとかで、なかなか折り合いのつく条件の仕事は見つけられずにい
た。

そんなある日。買い物に寄ったいつものスーパーで手に取った、求人情報誌に正社員の事務職で求人が出ていたのが、グランドエステートっていう不動産会社だった。
最寄り駅の沿線で、五つ先っていう手頃な通勤圏内。駅からも近くて、何ていうか『ピン』と来たのだ。

早速、電話して面接を取り付けたら一発で採用。あっけなく再就職が決定して、10月20日が初出社になった。
取りあえず、電話と来客応対が出来てパソコンが扱えればOKだったらしい。
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