キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
不動産の知識はゼロだから、慣れない専門用語を、もう一人の事務の吉井さんに教えてもらいながら勉強中だ。
こんなド素人でも背に腹は代えられないほど、会社は人手不足で切羽詰まってたんだろうか。

自動音声のアナウンスと共に車体が減速し始めた。次が自分の降りる駅。
踏切の警報音がゆっくり遠ざかり、制動がかかって扉が開くと乗客がバラバラと一斉にホームに吐き出される。
それほど大きな駅じゃないけど、少し行けば新興の住宅地も広がっていて利用客は多い。小ぶりな駅ビルには、スーパーにドラッグストア、書店やベーカリーショップなんかも並んでて、行きでも帰りでも通勤のついでに買い物が出来るのが便利でラク。
引っ越してきたのは三年前だけど、慣れてしまえばまあ、そこそこ居心地の悪くない住処。・・・そんな感じ。


ずっと、お兄ちゃんと暮らしてた前のアパートと街が“ホーム”だったから、なんかどっか、まだ自分がよそ者って気がしちゃう。誰かに爪弾きにされてるワケでもないのに。

心許ない転校生の気持ちが今なら分かるなぁ。・・・なんて、ちょっと感傷に浸りながら、あたしは公共の駐輪場に止めてる自転車にまたがってアパートに向かってペダルをこぎ出す。

風を切ると、11月初旬の夜気は最初は首を竦めたくなる。10分も脚を動かせば冷たさも忘れてた。
着る服と、温度調節にも悩む今日この頃だ。・・・こんなことで悩んでるぐらい、平和ってことかな。
何となく。溜め息と笑みが一緒にほころんだ。
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