キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
『りっちゃん、ごめん。取引先の挨拶回りでバタバタしてたから、今ライン見たよ。淳人と一緒?』

向こうから聴こえてきたミチルさんの声は静かで。だけど、それが何となく。
いつもと違う気はした。・・・上手く説明できないんだけど。

「うん、車の中。隣りにいるよ?」

『代わって、りっちゃん』

やんわりと。でも有無を言わせない口調。どこか。
あたしは、隣りを見上げてスマホを手渡す。それを受け取った彼は耳に当てて、おもむろに。

「・・・何だ、菅谷」

『会社のトップが、一従業員を個人的に食事に誘うのは感心しないね』

音楽もない車内に漏れて聴こえる、ミチルさんの声。
脚を組み、天井を仰ぐように淳人さんは少し息を吐いた。

「今はプライベートだ。志室の妹と食事するぐらい、俺の自由だろう」

『・・・僕にひと言あっても良かったんじゃないのか、淳人』

「リツの貸し出しは、いつまでお前の許可が要るんだ。・・・一生か?」

言いながら、シニカルに口角を上げた淳人さんの横顔。

『当然だろう。りっちゃんは僕のだからね』

淡々と言い切ったミチルさんの言葉で。思わず、顔に熱が集まるのが分かった。
保護者として言ってるだけなのは、分かってる。分かってるけど『僕の』って。そんな殺し文句、さすがに心臓ブチ抜かれましたけど・・・!

続く二人の会話が否応なしに耳に入ってくる中。口許を押さえ俯いて、騒ぎ出してる躰中の細胞を落ち着かせようと大きく深呼吸。

「次からは、事前に申告してやる。それでいいな?」

『・・・次は無いと有り難いけどね。門限は10時だ、忘れるなよ』

いつの間にか門限まで出来てる。・・・今まで言われたことないのに。
顔を上げて横を窺うと、淳人さんと目が合う。無言で不敵そうに笑ってた。

「ああ分かった。それまでには送り届けてやる。・・・じゃあな」

ミチルさんが向こうでまだ何かを言いかけてるのを遮り、淳人さんはあっさり通話を切った。
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