キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「ミチル、・・・さん・・・?」

悪いのは僕。
どうしてそんな風に言うのか。・・・あたしは分からない。分からなくて、心細くなる。なんだか。ずっとそこにいて、手が届いてたはずのミチルさんが、伸ばした指先でちゃんと触れられてるのか。急に曖昧になる。

自分の中に何もかもを閉じ込めるような、彼の抱き締め方を。あたしは憶えてる。お兄ちゃんが死んだ時。
悲しみも苦しみも深い雪の下に眠らせるように、泣くこともしないでただ、あたしの躰に強く巻きつけた腕は、あの時も今も。行かないでくれ・・・って。そう言ってる気がする。


どうしたら。・・・お兄ちゃん。
あたしにミチルさんより淳人さんを選ぶなんて出来るわけない。どうしたって。
分かってる、分かってるよ。・・・ごめんなさい、淳人さん・・・っ。

きゅっと目を瞑り、胸の内でゆるゆると息を逃す。
壊れものをそっと包むように、おずおずとミチルさんの背中に腕を回した。

「・・・・・・ミチルさんが悪いなんて、何もないよ。・・・心配してくれただけだもん。約束する、・・・淳人さんとは会わないって」


ミチルさんに穿かれた刃が、自分で紡いだ言葉でもっと奥にのめり込む。
どこかで鉄サビにも似た血の味がした。

それでもイタクナイ、って。自分に言い聞かせてた。





< 53 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop