キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
不意打ちだったから、びっくりして心臓が口から飛び出るかと思ったくらい。
あたしを囲い込む温もりが背中に密着して、安心感とドキドキが綯い交ぜになってる。
ワイシャツからか、煙草の匂いが少しだけ。あたしの前だと吸わなくなったけど、前はお兄ちゃんといつも部屋の外でホタル族だったよね。

「・・・・・・先に食べてていいって言ったのに」

頭の上で、頼りなさげに笑まれた気配。
フライパンの火を止め、あたしはそっと、胸の上あたりで交差してるミチルさんの腕に触れた。

「待てるだけ待とうと思ったら、案外待てちゃって」

おどけた風に言えば、抱き締める腕にきゅっと力が籠もる。

「ごめんね。・・・明日からは早く帰るよ」

「仕事なんだから気にしないで、ミチルさん。勝手に待ってたのあたしだもん。そういう遠慮はナシだってば」

「違うよ。りっちゃんより大事なものなんて・・・、僕には無いんだ」

それはあたしに言って聞かせてるって言うより。ミチルさん自身に刻み込んでるようにも響いた。

「・・・・・・僕に出来ることは何でもする。その為に僕はいる。これからもずっと、りっちゃんの傍を離れたりしないよ・・・」


どこか。ひどく儚く。・・・切なく。
永遠を誓う、優しい告白。

嬉しかった。
悲しかった。
どっちも本当で。

お兄ちゃんの代わりでも。
望んだのは、あたし。


「ありがとう」って返した顔が、ミチルさんに見えなくて良かった。
笑おうとしたけど上手くいかなかった。・・・から。
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