キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
百貨店の男性用のファッションフロアは、バレンタインのディスプレイ一色に染まってた。全体的に黒っぽいカラーに赤やピンクが雑ざって、華やかにも映る。
同年代からもうちょっと上の層まで、回遊する女性客の姿があちこちで目に付いた。

今年はミチルさんのネクタイ、どんなのにしようかなぁ。
顔を思い浮かべながら、似合う似合わないってあれこれ悩むのも、楽しみのひとつ。どんな色を選んでも、ミチルさんがスーツに合わせてくれるから、今まで失敗したことがないってゆーか。ならないっていうか。

最初に入った百貨店ではピンと来るものがなくて、二つ目を回る。
イタリアの老舗ブランドのネクタイで、落ち着いたサックスにネイビーの小花模様を見つけ、これにしようと決めた。
隣りにグレーにくすんだ赤の小花模様のがあって、こっちだったら淳人さんに似合いそうかなってふと思った。

あの夜以来、連絡はしてないし向こうから来ることもない。
・・・本当は、ご飯をご馳走になったお礼くらいはしたいけど。
会わないってミチルさんと約束した以上、破るなんて出来ない。分かってる。

ネクタイをじっと見つめて、あたしは溜め息を一つ逃し。

「これ、お願いします」

ショップの店員さんに声をかけ、手に取ったネクタイを手渡した。



< 61 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop