キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「お先に失礼します」

6時45分の退社時間になって、さくさく着替え、吉井さんと二人で会社の裏口から出た。

グランドエステートは、8階建てマンションの一階のテナントを賃貸して店舗を構えてる。左隣りは、クリニックが幾つか入ったテナントビル、右隣りはちょっと奥まってるけど、やっぱりマンションだ。
駅前からの直線道路沿いだから人通りも多い。不動産会社の立地としては、抜群なんだろうと思う。

駅までは、女子の足でも5分ちょっとの距離。明日の天気なんかを話しながら、闇空の下を歩き出す。
この時間帯は迎えも多いのか、ロータリーに向かう車が歩道越しに、何台もあたし達を追い抜いていく。
黒のセダンが進行方向の少し先でハザードを点滅させ、路上駐車したのも気に留めることなく脇を通り過ぎた時。

「リツ」

背中から聴こえたバリトンに、思わず肩を震わせて。振り返った。釣られて吉井さんの足も止まる。
突っ立ったままのあたしに、大きな歩幅で向こうから歩み寄ってきて、ゆっくり前に立った。
グレーのシャツに、クリーム地に赤の細い斜めストライプのネクタイ、黒の三つ揃い。ミチルさんと変わらない長身だし、いつ見てもこの人のオーラはどことない迫力がある。

驚いたっていうより、きっと迷子の子供みたいな情けない顔で見上げてたと思う。

「・・・・・・淳人さん・・・」

呆然とあたしが呟くと。目を細めて彼は、ふっと口角を上げた。
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