キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「お前が連絡も寄越さないから、待ちくたびれたぞ」

「えぇと、あの・・・」

目を泳がせ、それから吉井さんの存在を思い出して慌てて彼女を見やれば。
自分の会社の社長がいきなり現れた挙句、あたしを親し気に呼んだ。・・・ていう、この状況が飲み込めずに困惑している様子だった。

「そのっ、吉井さん、えっと・・・っっ」

「驚かせて済まない、吉井君。リツとは古い知り合いなんだが、社には余計なことは伏せてあるんでね。承知してもらえると助かる」

どう説明しようかプチパニくってるあたしに言い被せ、穏やかにやんわりと他言無用を言い渡した淳人さん。
吉井さんは「分かりました」と小さく頷き、何も見てないかのように、いつもと変わらない笑みで、また明日、とあたしに控えめに手を振った。

離れてく彼女の背中を見送り、ほっと肩の力を抜き、詰めてた息を逃す。
吉井さんなら口が堅いって思うし。他の人に知れたところでコネ入社を疑われるくらいだろうけど。

「リツ。・・・寒いから車に乗れ」

視線を戻すと、彼と目が合った。

乗るべきじゃないのは分かってた。
ミチルさんとの約束をあたしは守らなきゃ。
だから渡すものだけ渡して、それだけだから・・・!

自分への言い訳を喉の奥に流し込んで。
あたしは吸い込まれるように、車に乗った。
後部シートで。あたしの肩を抱いたまま、窓の外に視線を向けてる淳人さんの横顔に戸惑いを憶えながら。

もう一度会いたかったって、思える自分も確かにいて。
ミチルさんへのやましさと綯い交ぜになって、きゅっと締め付けられる胸が苦しいのを、じっと。・・・堪えてた。




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