キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
信号待ちで車が滑らかに停まる。
前と同じ運転手さんだと思うけど揺れは少ないし、お兄ちゃんとは大違いだなって妙な感心をした。
やがてまた静かに車は滑り出し、淳人さんがこっちに視線を傾げる。

「腹が空いてるなら、何か食いにでも行くか?」

だけどあたしは薄く笑んで、小さく首を振った。

「ミチルさんが心配するから・・・」

「・・・分かった」
 
吐息雑じりの返答には、不本意さも滲んで聴こえて。
淳人さんは淳人さんなりに、あたしを大事に思ってくれてるのはすごく伝わってくるから。心苦しいし・・・胸が痛い。応えたいのに、応えられないもどかしさ。

そこではっと思い出した。
脇に置いてたトートバッグを引き寄せると、中から長細いショップバッグを取り出し、淳人さんにおずおずと差し出した。

「えっとこれ、バレンタインのプレゼント・・・です」

その瞬間の驚きの表情は、案外レアものだったかも知れない。
目を見張り、そのまま固まってる淳人さんに、こっちがテンパって早口でまくし立てる。

「あの、たぶん渡せないだろうって思ってたんですけど、一応買っちゃったっていうか、大したものじゃないし、こないだのゴハンのお礼もしたかったし、それだけだからゼンゼン気にしないでください・・・!」

「・・・ああ」と短く返り。
ずい分と儚げな淡い笑みと一緒に受け取ってくれた彼から、三度目のキスが贈られて。・・・それが一番長くあたしを離してくれなかった。



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