キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
ご飯を食べ終わってから、頂きもののチョコをデザートに二人分の珈琲を淹れる。ドリップ式のキリマンジャロだったか、モカだったか。
キッチンでマグカップにポットからゆっくりお湯を落としてると、すぐ背中にミチルさんが立った気配がして、振り返らずに声を掛ける。

「淹れたら持ってくから、座ってていいよ?」

「うん。・・・りっちゃん」

「んー?」

「・・・淳人と同じ香水の匂いがするね」

頭の上で静かに響いた声に。一瞬。背筋が凍った。

「そお? 電車が混んでたから、誰かのが移っちゃた、かなぁ・・・?」

咄嗟に。ウソを。吐いた。
声が震えそうになったのを。気取られはしないかと。ピンと張り詰めたものを必死に押し殺して。

さり気なく。・・・さり気なく。
心臓が破裂しそうに早鳴りして、その音が耳の奥から聴こえる。
全身の細胞っていう細胞が。軋んで、圧し潰される感覚。

おねがい、ミチルさん。もうそれ以上は訊かないで・・・!

今にも、うずくまって耳を塞ぎたくなる。

崩れ落ちそうになる自分を必死に保って、珈琲を落とす。
落とし切ってポットを戻し、マグカップを手に取ろうとした刹那。

後ろからやんわりと回された両腕。
背中に密着する、シャツ越しのミチルさんの体温。
気配だけがどこか静かすぎて、・・・・・・無意識に戦慄く。

じわりと躰に巻き付くしなやかな“鎖”は、あたしをもう逃さない。直感。


「どうして淳人と会ったの。・・・答えて、りっちゃん」

柔らかな声だった。・・・・・・声だけ。
見えない刃で、背中から心臓を一突きにして。抜かないまま、・・・抉る。


「・・・どうして僕に、嘘を吐くの」
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