やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「ええ、そうだけど」思わず嘘をついた。
言ってしまうと少しの間があった。
息を吐き出すように言われた。
「お前なあ、も言う少しマシな嘘つけよ。そいつの家、どこだか知ってるのか?」
「どこって……」
知らない。私の家とは反対ぐらいしか。
もしかして。今、何か、まずいこと言ったのかな?
少し間が開いて、大きなため息が聞こえた。
「岡は、千葉の独身寮に住んでる。寮からそこまでタクシーで往復なんてあり得ないだろう」
「そうなの?」
「あの後、どうしたんだ?一緒にタクシーに乗ったと言うのは本当だろう。水口からも連絡もらったからな」
「水口さんから?」
「まったく。君は、何やってるんだ?今、家にいるってことは、あの後、まっすぐ家に帰ったんだろう?だから、あいつそこに、いるんだな」
「いるって……」
「都……俺の言いたいことは、わかるよな?」
「はい」
「すぐにそっちに行く。待ってろ」
すぐにって、どのくらい?
私は、ベッドでぐっすり眠っている岡先輩の体を揺すった。
「先輩、起きて」もう少し、強く揺すって見よう。
なんとか、彼が来る前にタクシーを呼べば。
ダメ。全然起きてくれない。
心地よい寝息をたてるだけで、岡先輩は起きてくれる気配もない。
どうしよう。
課長がここに来る。
課長って、今、どこにいるんだろう。あの調子だと、相当怒ってる。