やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「先に浴びて来ますね」声が上ずっていた。
このまま流されてはいけない。
課長は、キャミソールの紐を引っ張って引き留める。
ああ、全部見られたんだろうな。
それは間違いないだろう。
今は、なにも考えるな。
それは、一旦脇に置いておく。

でも……課長のキスは、嫌いじゃない。
また、その腕に捕まえられて、もう一度キスされたらどうしよう。
なんて考えてる。
拒否しなければいけないんだけど。
上司に嫌だって言えない。
ん?
嫌なんだっけ?
そのわりには、すんなりキスされてなかった?
全然抵抗してなかったじゃないの。
嫌じゃないってこと?
課長のキス、意外といけるなんて。

課長は腕を放してくれた。
「トイレか?行っていいよ」と言った。
私は、おぼつかない足取りで狭いリビングを横切り、洗面所に逃げ込んだ。

着ていた衣類を洗濯かごに放り込んで、バスルームのドアを閉める。
鍵をかけて、ようやく一人になれた。
課長の足音が聞こえないか耳を澄ます。
課長が追いかけて来ないことを確かめると、蛇口を目一杯ひねった。
「冷たい!!」
勢いよく、水が出る。
その分、たくさんの水を、頭にかぶってしまった。
死ぬほど冷たい。何やってるんだか。
これじゃ、水が温まるまでしばらくかかる。

水が冷たいこと、忘れるほど動揺していた。
落ち着かなきゃ。

どうしてこうなったのだろう。
タクシーに乗ろうとしたとき、確かに私は、岡先輩の
腕にしがみついていた。それなのに……
どうして、課長が私のベッドにいるの?

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