やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

受話器からは切羽詰まった声が聞こえて来た。

「サポート課?悪いけど。すぐに来てくれるかな?」
声の様子に聞き覚えがあった。
私はテーブルに置いてあるメモ用紙を一枚引きはがし、声を落ち着つかせて言った。
「部署とお名前を教えてください」受話器を持つ手に力が入る。
電話をかけて来たのは、岡先輩だった。間違いない。
そう確信すると、急に胸が高まる。

「ごめん。ほんと悪いんだけど。すぐに来てくれるかな。PCが死んでる。
お願い。今日、このナカニアルデータがないと俺死ぬ」
先輩は、電話の相手が誰であろうと構わずに言う。先輩、私だって、先輩が死んだりしたら、すごく困ります。
「わかりました。とにかく、見てみますね」
「うん。すぐにお願いできるかな。待ってるから」
「はい。すぐに伺います」
待ってるから。
先輩の声を脳内で反芻していた。

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