やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「神谷さん、それください。僕がやりますから」後輩の田代君がいつの間にか近くにいた。すぐ横に立って、私が手にしている作業依頼書をくれといっている。
「なんで?」私は、かなり無愛想に答えた。
田代君に罪はないんだけど。
彼が依頼書をくれといって、仕事を引き継ぐ理由が分からず、意地悪な対応をしてしまったのだ。できない仕事はないと、証明するためにも、これは他人に渡したくなかった。
しかも、田代君が欲しいと言ってきたのは、水口さんの仕事の依頼書だった。
この仕事は、私が引き受けたもので、私が解決すべきものだ。
それを、後輩がいきなり理由も説明せずに、寄こせと言ってきた。はっきり言って納得できない。
田代君は、私の顔をじっと見つめている。
私の質問に答えないまま、差し出した手を引っ込めるようにして軽く握った。
「何で?」私は、もう一度聞き返した。
人の仕事をどうしようというのかな?
田代君は、指でメガネを押し上げると面倒くさそうに言った。
「課長に言われたんで」
田代君は、私の机の上の書類に手を伸ばして奪い取ろうとしてきた。
待ってこのメガネ。
私は、書類を持っていかれないように手で押さえる。
「課長のとこ行ってくる」
田代君は、どうぞといつて、依頼書を返してきた。
やっぱり、課長が私に仕事を預けるのは、適切じゃないと判断したのだ。
どういうこと?
失敗とまでは、行かないはず。
それなのに、なんで交代させられるの?
受けた仕事は原則として、受けた当人が処理する。たから、これは私の仕事だ。
「悪いけど。これ、まだ渡せない」
「別にいいですけど」