やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
バスルームまで逃げていけば、課長に捕まらずに部屋から出ていける。
いえ、だめ。ちょっと待って。
それ、変でしょう。
どう考えても、ここは自分の家じゃないの。
課長を置いて部屋から逃げたって、なんの解決にもならくない?
じゃあ、どうしたらいいのよ。
私、本当に課長と寝たの?
どうにかして、この事実を消したい。
「あの、課長……」どうしよう。
何聞けばいいの。
「なんだ?」
端正な顔立が、こっちを向いた。
課長って。だいぶ面倒くさい人だし、年齢は少々上だけど。
いい顔してる。
鼻筋が通っていて、男性らしい顔してる。
近くで見るとほんと、迫力あるなあ。
「見てないで、こっちに来い」
課長と目が合って微笑んだら、頭の後ろに手を回された。彼の顔が、目の前まで近づいてくる。
「えっと……」何する気ですか?
「なに?」見つめあいながら聞いてくる。
これは、オフィスで話しかけた時とだいぶ違う。余計なことを言わないのは、いつもの課長だけど。
声は優しいし。表情も穏やかだ。
そんなくつろいだ顔したら、上司の顔に見えないじゃないですか。
それに。変です。
どうしたんですか、そんなに真剣な目をして私の顔を見て。
「あの……課長」
何となく、気まずい雰囲気になった。
見つめあって、どうする気ですか?
と言う前に、頭をがしっと捕まえられた。
捕まえられたと思ったら、いきなり口を塞がれた。
むがっ……
口を塞がれたんじゃない。
キスされたんだ……