やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
やっぱり町田課長の声。
何度聞いても、他の誰の声に聞こえない。
どうか岡先輩でありますように。私の願いもむなしく、数分経っても、町田課長が誰かに変わることはなかった。
この声、やっぱり町田課長だ。
オフィスでは、朝の挨拶も素っ気ない。
パソコンからほとんど顔を上げずに、いつもこんな風に言うのだ。
「何、遠慮してるんだ。隙間があると寒いって言ってるだろう?もっとこっちに来い」
「あっ……」
引き寄せられて、胸と胸がくっついた。
体が固い胸に押し付けられた。
確かに。
課長は、顔と体形だけは素晴らしい。外見だけなら、社の女性たちにも人気がある。
課長は仕事では、批判する人は、誰もいないくらい優秀だけど。恋人には、向いていないくらいというのが、女性たちの間でささやかれている。
その課長が、私を抱き抱えて腕枕している。
これは、きっといつもの課長じゃない。
今朝は違う。別人だ。絶対いつもと違う。
絶対同じ人じゃない。
同じじゃないでしょう。
ベッドの中で二人でいるなんて。
本当にあの課長?
恋人にするみたいに、甘い声でささやくなんてあり得ない。
あの、おっかない課長が私を見て、時々笑いかけてくるなんて。
どうしよう。気分が悪くなって来た。
こんな時は……
逃げてしまおう。
課長と寝たなんて。
課長に裸を見られたなんて。
何かの間違いに決まってる。