やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
だから、いつもは岡先輩の回りに群がってる女の子たちがいない。
岡先輩は、寄ってくる女の子たちに嫌な顔せずにきちんと相手にしてる。そんなところもいいなと思ってた。
いい人なのだ。私は、この人のことを好きだと思っていた。
でも、町田課長を前にした時の体の反応とはまるで違う。
彼に触れただけで、指先がピリッとする感覚は、岡先輩には感じない。
だからこんなに、覆いかぶさるように体に密着されても、先輩の体の重さと体の温かさしか感じないのだ。

かといって蒼白な顔で、苦しそうに今にも吐きそうな先輩を放っておけない。
「先輩、トイレ行きますか?」と聞くと岡先輩は、力なくうなずいた。
私は、よろよろと立ち上がった彼に肩を貸した。倒れそうになりながらもお手洗いまで歩いた。先輩は、素直に私のいうことを聞いてくれた。
「ほんと、ごめん」ようやく言葉を口にすると、先輩はお手洗いの中に消えていった。
どうしよう。
そのまま、先輩を置いて席に帰ってもいいんだけど。苦しんでいる人を残していかなかった。トイレの前の通路で彼が出てくるを待った。
10分は待ったけど。
先輩が出てくる気配もない。

どうしよう。大丈夫かな。
男子トイレのぞくわけに行かないし。
何となく、客席がざわついていたのも気にかかった。1度様子を見に行こう。
店の奥まった場所から、みんながいた場所まで戻った。

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