私達の初恋には秘密がある
驚いた。

なんて言葉で足りるだろうか。


私にぶつかってきたのは、私がもうとっくの昔に諦めたはずの恋の相手。


私の大好きだった初恋の人。


「ほんとに、ことり?」

止まった時を動かしたのは、彼だった。
足踏みを止めた足がこちらを向いく。
驚きを隠せないとでも言うように、彼は私の肩を揺すってみせた。

「そうだよ、りょうちゃん。ことりだよ...久しぶり?」

驚きで上手く表情を作れない。

普段、使わない筋肉を使おうとしたせいなのか、肩を揺さぶられたせいなのか。

「久しぶりだな。元気にしてた?ていうか、大きくなったな...まぁ、あたりまえか、あれから何年?」

すっ、と手は自然と方を離れていた。

(あっー···)

手が離れた事が寂しい。

なんて、ちょっと可笑しなことが頭に過った。

ふと、彼を見ると子犬みたいに人懐っこそうに笑っている。

その意外な反応に、圧倒されてしまう。だって、なんか嬉しそう。

「えっとー、元気だったよ。あれから...何年だろ?
10年くらい?···かな」

少しぎこちない口振りで、彼に告げた。

「変わんないな」

「えー、変わったよ」

変わんないな。なんて、私に最も似合いそうにない言葉に思わず、笑ってしまう。
それと同時に何か胸に違和感を覚えた。

「りょうちゃんは、変わってなさそう」

「なんだよ、そうって笑」

クスクス笑う彼。
自然な会話にホッと胸を撫で下ろす。

「まだ、ちょっと話しただけだもん、分かんないって。でも、優しいとこは変わんない」

「ははっそうかな? 」

それはどうも、なんて言いながら耳が少し赤くなった。

(あ、照れてる・・・かわいい)

昔のことなんてほとんど覚えてない。
幼稚園のことなんて、なおさら。
なんだけど...忘れる訳が無い。

私の初恋.....。
優しいりょうちゃんとの思い出。

「それよりさ、せっかく会えたんだし、連絡先。
ケータイ持ってるだろ?」

「あっ 」

少し嬉しくなって、慌ててケータイをゴソゴソとカバンの中から取り出した。

「はい 」

私が、チャット画面を出して渡すと、りょうちゃんは慣れた手つきで連絡先を交換してくれる。

「...」

「?」

終わって、ケータイを返してくれるも、なんか少し不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。

「どうかした? 」

我慢できずに聞くと、意外な言葉が帰ってきた。

「そうやって、いつも
ケータイすぐ誰かに渡しちゃうの?」

「 えっ?」

驚いた。
なんで、そんな事を聞くのだろう。
だって、貸してと言い出したのは。りょうちゃんの方だ。
訳は分からなかったけど、正直にそのまま話した。

「今は、連絡先交換するから普通に渡しただけだよ。でも、そんなに気にしたことない、かも...?」

首を傾げる私に彼は素っ気ない態度で示した。

「ふーん」

自分から聞いたくせに。

変なの。

「なんで?」

納得いかず聞いてみると。

「・・・あんまりやめときなよ 」

するとさらに意外な言葉が返ってきた。
私が、まだ分からないとでも言うような顔をしていたのだろう。
そしたら、ムスッとした顔で
「なんか、無防備···俺以外に気許しちゃダメだからね?世の中怖いんだから」

「へっ?・・・」

なにそれ、ずるい。
どうして、そんな真顔で言うのさ。

マフラーで咄嗟に顔を隠す。
いや、分かってるよ。言葉以上の感情がないなんて····分かってるけど。
あまり、人に心配されるというのに免疫が無い。
もちろん家族にはあるけど、友達とかには無かったから、特にここ最近。

「10年って長いね・・・」

顔に熱を帯びたまま、改めてそんなことを思った。
だってさ、りょうちゃんのこんな一面知らないし。昔のドキドキと、また違うんだ。

「うーん・・・」

何を思ったのか、りょうちゃんの手が私の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。

わっ...!!

こういう事しちゃうんだ・・・

「大丈夫だって、そんなに変わんないよ」

ヘラっと笑うりょうちゃん。
絶対、意味違う。勘違いしてる。たぶん、りょうちゃんは変わってないよって言いたいんだよね。
でも、そういう意味じゃない。
りょうちゃんがそうやって、女の子を気楽に触れるようになっちゃったって。
そういう経緯を私は知らない。

「・・・りょうちゃん、チャラくなった」

ムスッとした顔で言った。

「えっ? 」

不本意なのか驚いた顔。

「チャラりょうちゃん」

「なんだそりゃ」

何がおかしいのか面白そうにまたケラケラ笑いだした。

何よ、こっちはりょうちゃんのせいで混乱中なのに。

困ったな。もう、そんなんじゃないと思ったのに。
熱を帯びた顔に手を当てる。
冷たいー····。
何年も前に終わった初恋。
自然になくなったものだと思ったのに。



えっ────もしかして。



意外なことが判明した。

りょうちゃんのこと、ずっと好きだったのかな。

気になる人は出来ても、ずっと何故か本気になれる人なんていなかった。


こういうこと?


自覚すると、頬がみるみる熱が帯びる。

「···? どうした、顔が赤いぞ? 」

不意にりょうちゃんの手が私の額に伸びる。

「冷たいっ···」
外にずっと居たりょうちゃんの手は氷のように冷たかった。

「あ、悪い! でも、熱は無いみたいだな」

「りょうちゃんの手冷たすぎだからだよ」

クルッと顔を背けた。
簡単に人のこと触っちゃえるりょうちゃんに、何故かイライラして。
なんか、嫌だな。私意外にもこうやって触れちゃうのかな。知らないりょうちゃんを勝手に想像して、勝手に嫉妬してる自分がいた。

やりすぎたかな?
チラッとりょうちゃんの方を向くとー。

「そうかな? 」

うーん、と自分の手を眺めるりょうちゃん。

な、なにそれ。
手が冷たかったから怒ってると思ってるの?

そして、またクルッと方向転換し、歩き始めた。
もう知らない。

「お、おいっ...」

慌てて着いてくる彼。

「女の子にそんな簡単に触れちゃダメだよ... 」

なんて、ボソッと小さな声で私は呟いた。
当然、彼には聞こえてないようで、なんか言った?なんて聞き返してくる。

「べーつに」

なんて、言っても隣を歩いてくれるりょうちゃん。
もう日は暮れて、少し冷えたこの薄暗い道。

こんな道でも君といれば怖くないな、ってそう思えた。
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