旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「別にこれくらい大丈夫だ。そもそも、お前が謝ることじゃないだろ」



津ヶ谷さんはハンカチを受け取り、自分で頬にあてる。



「どうして、あそこに?」

「たまたまだよ。トイレ行こうとしたら声が聞こえたから行ったら、お前と乾がいた」



すると彼は、じろ、と呆れた目を向けた。



「つーかお前、乾相手に啖呵切ってなに考えてんだ」

「うっ……すみません」

「なに言われても俺ならあとでいくらでも自分でフォローできるんだから、好きに言わせておけばいいんだよ」



確かに。私、余計なお世話だったかも。

でも、そうだとしても黙ってなんていられなかった。



「だって……腹立たしかったんです」

「え?」

「津ヶ谷さんの気持ちも、なにも知らないであんな言い方されるのが、私は嫌だったんです」



津ヶ谷さんの優しさも、諦めたフリで悲しい顔をしていることも、なにも知らずに否定しないでほしかった。

黙って見過ごすなんて、できなかった。



「だから……」



なのに、結果として彼に怪我をさせてしまった、乾さんにもわかってもらえたかなんてわからない。

そんな悔しさから涙がこぼれた。

ぐす、と涙を拭っていると、津ヶ谷さんは「あー……」と困ったように髪をかく。



そして次の瞬間、そっと手を伸ばし、私の頭を抱き寄せた。



「泣くなよ。……どうしていいかわからなくて、困る」



わからない故のごまかしなのか、それとも慰めなのか。

わからないけれど、頭をポンポンと撫でてなだめてくれる、その大きな手に甘えるしかできない。



こぼれた涙がジャケットににじむ。

メイクが落ちて彼のスーツを汚してしまうかもしれない。離れなくちゃ。

そう思うのに、抱き寄せられたまま、離れることはできない。



彼がこんなにも、あたたかいこと。

不器用だけも優しいこと。



なにも知らずに、否定しないでほしいよ。







< 124 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop