旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「待てって」
強い力に引き留められ、足を止める。
胸はこんなに苦しいのに、彼との距離にまた胸はときめいてしまうから、憎い。
けれどその感情に必死に蓋をして抑えた。
「……もう、いいですよね。夫婦のフリはおしまいです」
冷静を装い言うと、腕を掴む手に力が込められた。
「待てよ、話聞けって」
「聞くような話なんてないです。乾さんがいるなら、私なんてもう必要ないじゃないですか」
そう、本物の相手ができたなら私の役目はもう終わり。
「私だって、弱味を握られてたから結婚を選んだだけ。私たちは紙切れ一枚でつながっただけの他人ですから」
自分で発した言葉に、胸がひどく痛んだ。
一瞬力が緩むのを感じて、私はその手を振り払う。
「大丈夫です。家もすぐ出ていきますし、津ヶ谷さんのこともバラしません。だから、私のことも黙っててくださいね」
「彩和、お前……」
津ヶ谷さんが私の肩を掴み、振り向かせる。
瞬間、これ以上我慢ができず目からはボロボロと大粒の涙がこぼれた。
そんな私に津ヶ谷さんは言葉を失う。
もう、ダメだ。
これ以上隠せない。
好きなのに、本物になれないつらさが大きくてつらい。
それ以上なにかを問われることが怖くて、私は津ヶ谷さんを突き飛ばしその場を逃げ出した。
私たちの秘密の、終わりだ。