強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
「今日は打ち合わせがあってね。お邪魔してたんだ。」
「そうなんですね。」
せっかく来たエレベーターなのに、駿はそれには乗らずに、千春と話すために廊下で立ったままだった。
千春は、先輩の顔が緊張で見れなかった。
ずっと会いたかった、声が聞きたかったはずなのに、いざ会うとドキドキしてしまうのだ。
「ごめん…気軽に話し掛けすぎたかな?」
「いえ。仕事で会ってしまうことは、仕方がないので。私も、いい加減諦めなきゃいけないので。大丈夫です。」
一瞬、彼の顔を見たけれど優しそうに微笑む先輩と目が合うと、頬を赤くして下を向いてしまう。
これでは、まだ未練があると彼にバレてしまうとわかっているけれど、我慢はできなかった。
「……可愛いね。今日の服も髪型も、それに千春ちゃんも。」
「………え。」
耳元でこっそりと囁くように先輩に言われて、思わず顔をあげてしまう。
すると、先輩の顔が間近にあり、そしてしっかりと目が合う。
「……今日の夜さ、時間ある?」
「えっと、今日は予定が……。」
「じゃあ、話だけでいいから。少しだけ時間くれないかな。会社で話そう。」
「………でも。」
「すぐに終わるから、ね。」
先輩は、千春が弱い耳元で囁いてくる。ずるい、と思いながらも体が震えるのがわかる。
そんな様子を見て、先輩はクスクスと笑っている。
「わかり、ました。」
「ありがとう。じゃあ、また連絡するね。」
先輩は、そう言うと颯爽と歩き出し、エレベーターに乗り去っていく。
千春は、罪悪感とちょっとした期待感を感じてしまい、自分の気持ちの弱さに悲しみを感じてしまった。
心の中では、わかっている。先輩に会ってはいけないんだと。
自分は秋文の彼女になったのだから。
それなのに、会うと約束してしまった。
秋文への甘えが見えてきて、止めたいのに止められない自分が悔しくて仕方がなかった。