強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
泣くことだけは我慢して、早足で会社から出た。俯いたまま、押し潰されそうな心を抱えて歩いていると、「千春っ!」と、聞き覚えのある男の声が聞こえた。
振り向かなくてもわかる。秋文の声だ。
「おい……どうしたんだよ。待ち合わせの場所、連絡しただろ。」
「………ごめんなさい。」
「おまえ、泣いてるのか?……何かあったのか?」
俯いたままの千春を心配して、秋文は顔を覗き込み、千春の表情を見て、更に不安そうに声をかけてくれた。ちらりと秋文を見ると、周りにバレないように、黒ぶちのだて眼鏡をかけていた。
「ちょっと、仕事でミスしちゃって、落ち込んでただけだよ。ぼーっとして、ごめんなさい。」
「………本当に?」
「………大丈夫だから。そんなに心配しないで。」
必死に作り笑いをするけれど、うまく笑えてないと千春自身わかっていた。
秋文の顔が見れないまま、千春はゆっくりと歩き出す。
すると、片手に温かい感触を感じて、隣を見上げてしまう。
秋文が、心配そうに微笑みかけながら、千春の手を握って歩いてくれていた。
その優しい温かさが、とても辛くて。
千春はこっそりも一粒の涙を流してしまった。
夜の闇で、彼にはバレていないと願いながら。