打って、守って、恋して。

「あら?……ねぇ、あの車って…」

窓側にデスクを構えている沙夜さんが、窓の外を見てふとなにかを見つけたようだ。
じっと目を凝らし、やがて私を手招きする。

「─────旭くんの車!?」

「やっぱり!?もしかして柑奈ちゃんに会いに来たんじゃないの?」

「何も連絡来てないです!」

たしかに見覚えのある何度も乗ったことのある黒いセダン。
プロになっても車を変えない彼のこだわりである。

携帯を見てみてもやはり音沙汰はないが、会社を出たところの路肩に停まっているあの車は間違いなく旭くんのものだ。

「どれどれ!?」
「どこにいる!?」

淡口さんと翔くんも即座に身を乗り出すように窓に張りついた。


……数分後、私は車から旭くんを連れ出し、会社の事務所へと招き入れていた。正確には、淡口さんたちに強制的に事務所へ連れ込まれたのだが。

「さあさあ、お茶でもどうぞ!ほらっ、翔くん!お茶菓子!」

「赤いサイロ食べますか!?いや、バターサンドあったかな」

「わかさいもは!?」

「……あの、おかまいなく」


ワタワタしているのは男性二人。
さっきまで旭くんのことを地味地味と連呼していた彼らが一番興奮している。
押し寄せるお茶菓子の波状攻撃に、旭くんは肩身が狭そうに困ったような顔をして応接スペースのソファに浅く腰かけていた。

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