打って、守って、恋して。

⑤新生活の始まり




先日、めでたく旭くんと入籍した私は、もう東京で彼と幸せな新婚生活を送り始めた……かと思いきや、まだ札幌にいた。
ぬるま湯のようなゆるい職場とはいえ、一応これでも五年勤めてきた会社だ。引き継ぎなどで一ヶ月半ほどは残り、さらに有給を消化したのだ。

送別会では淡口さんが号泣し、翔くんは「たまに連絡くださいね!」と笑顔で送ってくれ、沙夜さんは「アスリートの妻同士、情報交換しよーね」とウィンクしていた。


実家へ旭くんが結婚の挨拶に来た時、うちの両親はすぐに彼をプロ野球選手とは認識できなかった。
当然といえば当然なのだが、両親は地元の球団を応援しており、かと言って熱心なファンかと聞かれるとそうでもない。まさににわかファンである。

そういうのもあって、他球団、しかもリーグも違うとなれば彼を知らないのは仕方のないことだった。

もちろん結婚に関しては反対などするわけもなかったが、彼が帰ったあと、うちの両親はどうやら旭くんのことをネットか何かで調べたようで。
あとで母から電話が来た。

『スポーツ選手は大変だよ。柑奈を選んでくれてありがたいけど、あんたもちゃんと彼を支えてあげなくちゃだめだからね。調子がいい時もあれば悪い時もあるんだから、帰ってきたら何も聞かずに“お疲れ様”って声をかけてあげなさい。……あと、プロ野球選手って色々と誘惑が多そうだから、それだけ気をつけて』

き、肝に銘じます。

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