死にたい君に夏の春を
「あ、痛っ……」


腹の傷が開いてたことを忘れていて、急に痛み出す。


「ご、ごめっ」


栞はとっさに僕から離れる。


起き上がって見てみると、制服の白いシャツには赤く血が滲んでいた。


右腕の傷も開いていて、その痛みで顔をゆがめる。


「大丈夫?」


「大丈夫、1度塞いだんだからまたすぐ治る」


それでも気がかりで、心配しながら僕を見る。


「それより、これからどうするんだ?」


「これから?」


「父親もいないし、どうやって生活するつもりなんだ?」


「あ、その事なんだけど……。お母さんが、見つかったの」


見つかった?


どういうことだ、死んだんじゃないのか?


「私が小さい時に家を出ていったっきりどこにいるのか分からなかったんだけど、警察の人が探してくれたんだ」


居なくなったと言ったのは、離婚したという意味だったのか。


「それで、その母親と一緒に住むのか?」


「最初はやめようと思った。一颯がこんな状態になってるのに、私だけここから逃げるみたいで嫌だって。でも、今決めた。私この街から出ていく」


それは、僕と一緒に居られなくなるということか。


せっかく掴んだこの手が離されちゃうみたいじゃないか。


でも、行かないで、なんて言えない。


母親と幸せになろうとしている彼女を止めることは出来ない。


「寂しくなるな」


溢れ出そうになった涙を堪えて、そう言った。
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