大江戸シンデレラ

天から放たれた(いかづち)に……
我が身をまともに打ち抜かれた……
と、舞ひつるは思った。

あまりのことに……声も出ない。

団栗眼(どんぐりまなこ)になっている目を、さらに見開き……
口もぽかんと開けて……
まったくの(うつ)けた顔になっていた。


されども……

兵馬がお武家で……
それも、数多(あまた)の同心を束ねる御役目を担う、与力の御家の御曹司で……

いつまでも吉原(ここ)におられるお人ではない、ということは……

——初めから、(わか)っとりんしたはずでなんし……


それに……

舞ひつるもまた、近々、身請けされる定めにあった。

しかも、当人ですら、何処(いずこ)落籍()かれて行くのか知らされていない。

玉ノ緒の場合とは異なり、なぜか見世からはきつう口止めされているのだ。

ゆえに、兵馬には……告げるわけにはいかぬ。


兵馬と舞ひつるは、じっと身じろぎもせず、互いを見つめ合っていた。

……武家の男と(くるわ)(おんな)

そもそも、身分の(たが)う二人にもかかわらず、かように人の目を盗んで逢って話をすることさえ、世間の道理に外れた(ゆる)されぬことだ。

万に一つも交わりっこない道を、兵馬も舞ひつるも各々(おのおの)歩んでいた。

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