停留所で一休み
「何もしないで、波の音を聞いている。」

「波の音?」

私は後ろを振り返った。

「何だ、気が付かなかったのか?」

父は驚いたように聞いてきた。

「そっか。港の近くだから…」


「携帯ばかりいじってるから、近くにある音も聞こえなくなるんだ。」

はい、おっしゃる通りです。

「まあ、いい。静かに波の音を聞きなさい。」

その時の私は、やけに素直に父に従った。



ただじっと、じっと黙って耳を澄ませてみると、聞こえてくる。

寄せては返す、波の音。

果てしなく遠くから聞こえる、船の汽笛の音。

向こうを走る、自転車の音。

家に帰っていく、子供達の声。

「出海。お母さんや姉弟に何かを言われたとしても、気にするな。」
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