それは誰かの願いごと




諏訪さんと浅香さんの結婚話は、わたしの胸を重く沈めたままだった。

まだそれらしい噂は流れてないみたいだけど、それならわたしも、まだ、知りたくはなかった。

失恋することが前提の片想いだったのは分かっていた。
いつかこんな日が訪れることも、覚悟はしていた………つもりだった。
でも結局のところは、ちっとも覚悟なんかできてなかったのだ。

それどころか、蹴人くんの一件以来、急激に諏訪さんとの関係に変化があらわれて、無意識の下に、浮わついた気持ちがなかったとは言えないのかもしれない。

諏訪さんに親しく話しかけられて、”良いこと” が起こった直後に、二人の結婚が決まったことを知る、”悪いこと” に傷付いて。

……こんなの、例えネガティブじゃなかったとしても、前向きに捉えるのは難しすぎる。
グラスの水を ”まだ半分残ってる” と言う人達だって、きっと、わたしと同じ立場になればその落ち込みは相当だろうから。

今、わたしの中にあるグラスの水は、もうほとんど残ってないのかもしれない。それどころか、干からびて、グラスにヒビが入ってたりするのかもしれない。

そんな風に ”絶望” に直面してしまった今となれば、健康なグラスに半分も水が入ってる状態なんて、まだ幸せな方だったのだ。


わたしは、気付けなかった幸せを嘆く気にすらなれないまま、家路についたのだった。










< 130 / 412 >

この作品をシェア

pagetop