それは誰かの願いごと




「なにが?だってお姉ちゃんとお兄ちゃん、結婚するんやろ?」

きょとん、と可愛らしく不思議顔で言い返されて、わたしは慌てて首を振った。

「違う違う!諏訪さんが結婚するのはわたしじゃなくて、浅香さんっていう別の女の人!」

「え………」

蹴人くんは、何を言ってるのか分からない、というリアクションをしてから、

「えーっ?そうなん?なんで?なんでお姉ちゃんと違う人と結婚なんかすんの?」

大声で叫んだ。

「なんでって……」

そんなのこっちが聞きたいわよと思いながらも、本気で不思議がっている蹴人くんに気持ちをぶつけるわけにもいかない。

「諏訪さんが、諏訪さんの好きな人と、結婚するのよ」

改めて口にするのも嫌だけど。
仕方なく説明したわたしは、自分で自分を傷付けることになった。

「なんでお姉ちゃんちゃうん?お姉ちゃん、あのお兄ちゃんのこと好きなんやろ?ならお姉ちゃんがお兄ちゃんと結婚したらええやん!」

「なに言ってるの、そんなの無理よ………。いくら好きになっても、気持ちが通じるわけじゃないのよ?」

いつもと違って、今日はやけに無邪気な発言をしてくる蹴人くんに、わたしは呆れた表情を隠せなかった。

それでも、

「なんでなん?なんでお姉ちゃんがお兄ちゃんのこと好きやのに、あかんの?……あ!あれや!」

蹴人くんが何かをひらめいたように言うので、わたしは「なあに?」と力なく尋ねた。
すると蹴人くんはクリクリの目を輝かせて、

「お姉ちゃんがお兄ちゃんにちゃんと好きって言ってないからや!」

まるで、それしか考えられないとばかりに断言したのだった。










< 134 / 412 >

この作品をシェア

pagetop