それは誰かの願いごと
それを聞いたわたしは、盛大なため息をこぼしていた。
純粋無垢と言えばいいのだろうけど、ここまでくると短絡的なだけにしか思えない。
わたしが諏訪さんに気持ちを伝えたどころで、諏訪さんが何とも思ってなければどうにもならないじゃない。
普通の幼稚園児ならともかく、賢い蹴人くんにそれが分からないわけもないだろうに。
いや、普通の幼稚園児にだって、好きな者同士が結婚するなんてこと理解してるだろう。
考えすぎる癖はイライラを発生させてしまう。
わたしはそのイライラを口調に出さないように注意しながら、蹴人くんに諭すように話しかけた。
「あのね、もしわたしが諏訪さんに『好き』って言ってたとしても、諏訪さんがわたしじゃない人を好きだったら、結婚はできないのよ?」
諏訪さんの大切な人は、浅香さん。
蹴人くんだって、諏訪さんの心の中をのぞいたのなら、知っているはずだ。
なのに蹴人くんは、全然引き下がろうとしなかった。
「でもお姉ちゃんがお兄ちゃんに『好き』って言ったら、何か変わるかもしれへんよ?」
「変わらないよ」
譲らない蹴人くんに、わたしもおとなげなく反論してしまう。
けれど蹴人くんも負けずに反論に反論を重ねて。
「変わるって!」
「変わらないよ」
「変わるよ!なんで変わらへんって決めつけんの?」
「だから……変わらないものは変わらないんだよ」
不毛なリピートに、苛立ちを通り越して苦笑が出てきそうになった。