それは誰かの願いごと




それから、

「ほんで、お姉ちゃんのお願いごとは、どうするん?」

再び、蹴人くんお決まりの質問に戻った。

「えっと、それは…」

大切な人の幸せを願うにも、諏訪さんは浅香さんと結婚するのだから、わたしなんかが諏訪さんの幸せを願う必要もないわけで。

わたしが言い淀んでいると、蹴人くんは「んー」と、生意気にも腕組みして、何かを考えてるような態度を見せてくる。

「お姉ちゃんが『好き』って言わへんかっても、お姉ちゃんの心の真ん中にいるのがあのお兄ちゃんなのは変わらへんからなぁ……」

多少は慣れてきたかもしれないけれど、やっぱり、蹴人くんに心の中を読まれてると感じるのは、奇妙で、落ち着かない。

わたしは気を逸らすつもりで腕時計に視線を移したが、それと同じタイミングで、バッグの中で着信を知らせる振動があった。
これ幸いとばかりに、いそいそとバッグに手を突っ込んで探した。蹴人くんにも分かるように、わざと、大きな仕草で。

「お姉ちゃん、電話?」

「うん、そうなの……あれ?白河さん?」

珍しい着信相手に、わたしは、にわかに胸騒ぎを覚えた。

「お姉ちゃん、出ぇへんの?」

指が止まってしまったわたしに、横から蹴人くんが催促してくる。

「うん……」

あやふやな返事をしつつも、わたしは、密かに脈が速くなっていくのを感じていた。
以前にも、白河さんから電話がかかってきたことはある。
でもそのときは、必ず前以てメールで ”今、大丈夫?” と、こちらの都合を訊かれていたのだ。
だからこんな風に前触れもなく電話してくるなんて、何かあったのかもしれない。

わたしは予感を払拭できないまま、恐る恐る電話に出たのだった。








< 137 / 412 >

この作品をシェア

pagetop