それは誰かの願いごと




すると蹴人くんが、ピンと人差し指を立てて提案してきたのだ。

「じゃあ、試しにお兄ちゃんに『好き』って言ってみたらええやん!」

「だめだよ。諏訪さんはもう結婚するんだよ?」

わたしの中では、もう結論が出ていることなのだ。
それを今さら―――――――

そう思って、はなから蹴人くんの進言を流そうとしたところで、

「だからやん!結婚する前に言わな!結婚してからやったら手遅れになるねんで?」

それでええの?

蹴人くんが、わたしがあえて見ようとしなかったことをズバリと突いてきたのだった。

気持ちを伝えるなら、結婚する前に……
そんなことは分かりきっている。
だけど結婚まで決まっている人に対して、玉砕前提で告白するなんて、なんの意味もないじゃない。むしろ迷惑をかけるだけで。

それに、もちろん、わたしなんかが好きと伝えたって二人の間にさざ波すら立たないだろうけど、万が一、浅香さんに誤解を与えるようなことになってしまったら、諏訪さんに申し訳ない。

二人の幸せな未来を思って胸が痛んだとしても、諏訪さんの不幸せを願っているわけではないから。
そんな人間には、なりたくないから。


わたしは誤魔化すでもなく、100%の嘘というわけでもなく、

「もう、いいの……」

ただ、諦めの言葉を口にした。

蹴人くんはすぐさま「でも、」と反論のポーズをとってくる。
けれど、その先はグッと飲み込んだようだった。
代わりに、

「――――それなら、あとで、後悔せえへんようにしぃや。ほんまに言われへんようになって、手遅れになってから悔やんでも、どうしようもないねんからな?」


またもや、大人顔負けのセリフを告げたのだった。







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