それは誰かの願いごと
「もしもし…」
《もしもし、和泉さん?》
わたしの声に被さるようにして名前を呼ばれる。
その声は、こちらを焦らせるには充分なものだった。
これは、白河さんにしたら相当なイレギュラーだ。
「白河さん……どうしたの?」
《もう家に帰ってる?》
「もうすぐで着くけど…どうかした?」
白河さんの後ろ側で、男の人、おそらく戸倉さんの声が聞こえた。
なんて言ってるかまでは分からなかったけれど、なんだかバタバタしてる気配を感じた。
《あの、落ち着いて聞いてね。さっき戸倉さんの携帯に連絡があったんだけど…》
「うん」
《諏訪さんが、事故に遭ったみたいなの》
「…………え?」
《だからね、諏訪さんが事故に遭ったみたいで、諏訪さんの携帯の不在着信を辿って戸倉さんに連絡があったの。それで、詳しい容態とかは分からないんだけど、運ばれた病院が和泉さんの家の近くにある病院って聞いて…分かるかな?駅からすぐそばのところにあるらしいんだけど》
「うん、分かる。救急搬送ができる病院はひとつしかないはずだから」
《よかった。諏訪さんの携帯の中に実家の番号が入ってないみたいで、それで今、戸倉さんがまだ残ってる人事の担当に問い合わせて諏訪さんの実家の連絡先を聞いてるんだけど、たぶん明日にならないとご家族もこちらに来られないだろうから、とりあえず……》
「すぐ行くわ!」
白河さんのセリフを遮って返事をしていた。
考える間もなく。
声も、手も、震えていたけれど。
それは、だって、しょうがない。
だって諏訪さんが、事故に―――――――
事故と聞いたときは全身の血が引いたような感覚に目眩がしたけれど、いつになく早口で話す白河さんの説明を聞き漏らすまいと追っているうちに、目眩を起こしてる場合ではない、一刻もはやく行かなくちゃという焦燥に駆られた。
今わたしにできることがあるなら、どんなことでもする。
いや、例えわたしにはできないことだったとしても、どうにかしたい、させてほしい。
何より、諏訪さんの容態を確かめ、無事を確認しないことには、この震えは止められないと思ったから。