それは誰かの願いごと
《私と戸倉さんもすぐに向かうから、詳しいことが分かり次第、連絡くれる?》
「わかった」
素早く返事したわたしは、通話を切りながら蹴人くんに振り向いた。
「蹴人くん、諏訪さんが事故に遭ったみたいなの!だからわたし……」
けれど、やっぱりと言うか、いつも通り、蹴人くんはもうそこにはいなかった。
ただ今日がいつもと違うのは、いなくなった蹴人くんにかまってなんかいられないことだ。
わたしは携帯をバッグにしまいもせず、自宅マンションとは逆の方向に一目散に駆け出したのだった。
事故って……
本当に諏訪さんなの?
どんな事故だったの?
車同士?それとも諏訪さんは歩いてたの?
諏訪さんは仕事帰りだったの?
浅香さんは一緒にいなかったの?
自分で実家に連絡できないということは、まさか意識不明?
………いや、まだ決まったわけじゃないんだから、落ち着こう。落ち着かなきゃ。
でもどうして?どうして諏訪さんが……
大丈夫だよね?きっと、きっと、たいしたことないよね?
一刻もはやく諏訪さんの無事を確認したいと急く気持ちの傍らでは、詳細を知るのが怖いと怯んでしまう自分がいて。
いくら大丈夫だと自分を宥めても励ましても、考えすぎる癖がどんどん自身を追い詰めていくのだ。
最悪のことまでが頭を過り、そんなはずはないと無理やり打ち消しても、問答無用に不安は増殖し、容赦なくわたしの心を乱して落とそうとする。
そんなわたし自身に負けないように、わたしはできる限りに急いだ。