それは誰かの願いごと
ICUというと、スタッフがバタバタと忙しなくしているイメージだったけれど、ここは静謐に包まれていて、ピ、ピ、ピ……といった機械音のようなものがいくつか響いていた。
ふと、パソコンを見ていた女性看護師がわたし達に気付き、小さく会釈した。
わたし達はバラバラに頭を下げて、その前を通り過ぎた。
「こちらです」
案内役の看護師に従ってついていく。
そして、ガラス窓の向こうにいる諏訪さんの姿を、わたし達は見ることになったのだった。
交通事故と聞いていたから、骨折ほど酷くなくとも、てっきり頭や腕なんかは包帯で巻かれていると勝手に想像していたのだが、そこにいる諏訪さんは、ただ寝ているようだった。
もちろん、点滴や、測定機器のコードなんかが色々つけられてはいるが、それ以外は、ただ目を閉じて横たわっているたけにしか見えなかったのだ。
頬も血色よく、苦痛に歪んでいる表情でもなくて。
「諏訪さん…」
唇からこぼれ落ちる呼び掛けは、本当に無意識のものだった。
諏訪さんの寝顔なんて見たこともないけれど、その整った顔立ちは相変わらずで。
「諏訪くん、顔色はいいわね」
浅香さんがわたしと同じ感想を口にした。