それは誰かの願いごと
蹴人くんはあれ以来、一度も姿を現さなかった。
それが日常ではあるのだけど、考えすぎる性格上、蹴人くんから音沙汰がないのは何か良くない理由があるんじゃないか……なんて、答えあわせをしようもない想像で落ち込んだりしていた。
それでも、毎晩諏訪さんの病室を訪れて、一言も発しない諏訪さんと会うたびに、今のこの状況よりはきっとマシになるはずだと、わたしにしては珍しいプラス思考が支えてくれるのだった。
諏訪さんの事故以来、わたしの中で、確かに何かが変化していると感じていた。
きっかけが諏訪さんの事故でなければ、それは喜ばしいものだったのだろうけど、諏訪さんが目を覚まさなければ、わたしがそれを喜ぶことは、一生ない。
だから早く、目を覚ましてほしい。
そう願いながら、わたしは今日も日課となっている諏訪さんのお見舞いに向かっていた。
今日は土曜なので、わたしは早めに昼食をとって家を出ていた。
もしかしたら会社の人達が諏訪さんのお見舞いに来てるかもしれないけど、もしそうなら大路さんの部屋に行ってみようかな…そう思ったわたしは、駅前のフラワーショップでガーベラだけで小振りの花束を作ってもらい、通い慣れた道を急いだのだった。