それは誰かの願いごと




「こんにちは」

「あら和泉さん。お疲れさまです。今日はずいぶん早いんですね…って、今日は土曜だったわね」

水間さんを見かけて挨拶すると、意外そうな顔をして、それからすぐに自分に突っ込みを入れた。
今日も周りを和ませる明るさは健在だ。

「看護師さんは曜日関係なくお仕事ですものね」

「そうなんですよ。それでなくても役職が変わったばかりで色々覚えることも増えちゃって、平日も週末もそのことで頭がいっぱいで……」

水間さんはフルフルと小さく頭を振ってみせた。
病棟内のことはよく知らないけれど、時折、水間さんが他の看護師に指示をしたり注意したりしてるところを見かけていたので、それなりのポジションにいる人なのだろうなとは思っていた。

「わたしも仕事が詰まってると、曜日感覚がなくなります」

わたしみたいな下っ端と比べるのは失礼かもしれないけれど、さりげなく同意を示してみると、水間さんは「そうですよねぇ」と頷いていた。

「ところで、今どなたかいらっしゃってますか?」

話題が一区切りついたところで、諏訪さんの病室の様子を尋ねた。

「今日はどなたもいらしてませんよ。だから諏訪さん、今か今かと和泉さんを待ってるんじゃないかしら」

水間さんはわたしと諏訪さんの関係を勘違いしていて、何度も訂正してるのに、『へぇ、そうなんですか?』なんて言って、流されてしまうのだ。

だから仕方なく、

「諏訪さんはわたしなんか待ってないと思いますよ?」

適当にかわして苦笑いを浮かべた。
ところが水間さんは「あら、そんなことないですよ」と即座に否定したのだった。






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