それは誰かの願いごと




諏訪さんの意識が戻った日、ご両親が病院に来られたのは夜も遅い時刻だった。
取るものも取り敢えず急いで駆け付けたのが一目でわかったのは、お父様の靴下が左右でデザインが違ったからだ。
『お父さんはドジねぇ』と笑うお母様も、携帯とテレビのリモコンを間違えて持ってきてしまったとかで、午前中は静まりかえっていた病室がたくさんの笑い声で満たされたのだった。

わたしはお二人からとても丁寧なお礼の言葉と菓子折りをいただき、戸倉さん、白河さんと一緒に病室を後にした。

そして、戸倉さんの車で自宅まで送ってもらう最中、二人から休みなくあれこれ質問された。もちろん、諏訪さんとのことだ。

二人が病室に戻ってきたときは、わたしはベッドから降りて諏訪さんのそばに立っていたのだが、雰囲気でばれてしまったらしい。
断っておくけど、その時にはわたしの赤面はおさまっていた……と思う。
二人が言うには、諏訪さんのわたしに対する態度が全然違ったらしい。
つまり、戸倉さんと白河さんにばれてしまったのは、諏訪さんが原因なのだ。

諏訪さんの気持ちをずっと前から知っていた戸倉さんはともかく、まったく知らなかった白河さんは、半信半疑ながらも “何かあったのかな?” と思っていたところ、戸倉さんからそれらしいことを教えられて、納得半分、驚き半分だと感想を述べた。

病室では諏訪さんがほとんど口を割らなかったので、帰りの車内でわたしが集中砲火を浴びたかたちだ。

わたしも前から諏訪さんのことを好きだったのか、とか、どんな風に告白されたのか、とか、戸倉さんが訊いてくることはまるで女子社員のランチに出てくるような内容で、『そんなこと和泉さんからは言えませんよ…』と恋人をたしなめる白河さんも、どこか楽しげだった。

結局わたしは、『諏訪さんとお付き合いがはじまった、のかな……?』と、曖昧な返事に終始したのだった。

それでも、二人からの追及は、困ったなと思う傍らではくすぐったさもあって、それはとても楽しい時間だった。


一人きりになったあと、また、あの悪い癖が出てくるまでは。








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